歪んだ空間の中で、魔法少女遠野みやかと元萌えキャラのシバは上空に漂う巨大な蝶を見上げていた。
 たった今孵化したばかりの、巨大な黒い蝶。魔法少女が戦うべき敵『マガキ』の本体だった。
 孵化したばかりだというのに、その翅の巻き起こす風圧は凄まじい。壊れた建物の破片が宙に踊り、砂埃がまるで霧のように地表に舞い上がる。
「とにかく、まずは逃げて様子を見るぞ!」
「わっ、わかった! えっと! えぇっと! 空飛ぶ呪文は……」
 遠野みやかが慌てていると、いきなり視界から蝶が消えた。
 いや、既に場所を移動し、二人の真上を飛んでいるのだ。
 あまりの速さに、遠野みやかはポカンと口を開けた。とても、今の自分が対応できる相手ではない。
「くそっ! 何て速さだ!」
 シバは遠野みやかを抱くと、素早く逃げだした。だが、蝶の動きは更に速く、風圧でその場を破壊しようと大きく翅を羽ばたかせようとした――その瞬間、
 マガキの頭上に、なんの前触れもなく大きな光の法円が出現した。
 新しい、マガキの攻撃だろうか。
 だが、その光の法円が吐き出したのは、
「……ぼえてろおおおおぉぉっ」
 怒鳴り声に近い悲鳴を上げて蝶に向けて落下してくる、黒い髪の青年だった。なんのコスプレなのか、ファンタジー風RPGゲームの戦士のような軽鎧を身につけ、腰に剣まで帯いている。
  落下しながらも、無意識に体勢を整えていたのか、その青年は足から、蝶の背中に当たる部分に着地した。
 さすがのマガキも、全く予期していない方向からの衝撃に、大きく体勢を崩した。地上の二人を直撃するはずだった風は大きくそれ、遠野みやかを抱えたまま、シバは離れた場所にとびずさった。
「え? なんだ?」
 降ってきた青年は、反射的にマガキの背を足場に反動をつけ、大きく空中に飛び出した。
 自分を踏みつけた者が目に入って、一時的にマガキの注意が遠野みやか達からそれたらしい。目の前を地面に向けて飛び下りる闖入者に向けて、蝶は翅を動かそうとした――が、
「ぁあああなんですかこれっ」
 続いて法円から吐き出された、今度は金髪の青年に、同じように巨大な背を踏みつけられ、マガキは更にバランスを崩した。地面を直撃した風圧が、人の背を覆うほどの砂埃を巻き上げる。
「知るかあぁっ」
 先に着地しようとしていた黒髪の青年の姿は、怒鳴り声と共に地表の砂埃の中にかき消えていった。後を追うように、同じ軌跡を描いて金髪の青年も、砂埃の中に消えて行く。
 体勢を整えようと、空中でマガキは何度か軽く羽ばたいた。軽くといっても、その巨大な翅の起こす風は突風並みだ。地表を覆っていた砂埃が、まるで横から息を吹きかけたように綺麗に流されていく。
 だが、砂埃が消えた地面に、さっきの二人の姿はどこにもなかった。
「な、なに今の……」
「空間が歪んでるからな」
 シバの体の下で呆然と様子を眺めていた遠野みやかの呟きに、シバは自分を納得させるように大きく首を振った。
「たまたま、ほかの空間を利用してた奴の通り道と、交差してしまったんだろう。いなくなったのなら、放っておこう」
「う、うん……」
 でも、最初に落ちてきたひと、ちょっと好みだったな。
 そんなことを言っている場合ではないことをすぐに思い出し、遠野みやかは蝶に視線を戻した。
 蝶は、本来の獲物に向けて、再び大きな翅をふるおうとしていた。

<第四章 了>

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タイトル協力:ふうりん まつり様
元萌えキャラ美青年シバと女王様のボケとつっこみが見られる原作様はこちら → 
もし、三十過ぎた普通のOLが元魔法少女だったら

※「もし、三十過ぎた普通のOLが元魔法少女だったら」18 話19話を元に構成しています。