それは驚くほど明るい部屋だった。
 炎によるものとは違う、光の棒がいくつも天井に埋め込まれて、室内にいるのに太陽の下にいるかのような明るさだ。起き上がったグランはとエレムは、床に打ち付けられた痛みも忘れて周囲を呆然と見回した。
 いったい、なんの施設なのだろうか。規則正しく並べられた棚には、透明な紙で包まれたパンや食料、鮮やかに色のつけられた金属の筒が整然と並べられている。床はつやつやに磨き上げられて、天井からの光を反射していた。
「あのう……?」
  カウンターと思われる場所の近くで、目を丸くして立ちすくんでいた黒髪の娘が、こわごわとこちらに声をかけてきた。いや、見た感じは娘だと思われるのだが、髪は少年のように短い。なんの制服なのか、飾りの少ない上着にズボンをはいている。胸元には、娘とそっくりな絵の描かれた札をつけていた。
 どう見ても娘は異国の顔立ちだし、異国の服装だ。グランははっと我に返って立ち上がった。
「くっそ、今度はどこに飛ばされたんだよ! おい起きろエレム!」
「飛ばされ……?」
 グランに怒鳴られて、頭を軽く左右に振りながらエレムも立ち上がる。それを見ていた娘は、ひとつ瞬きをすると、いきなりなにかに納得がいった様子で大きく手を打った。
「ああ! ツイッターで『何回リツイートされたらやってくる』ってあれですね!」
「り、りついー……?」
「判ってます! ここはトーキョーです! 2014年のトーキョーですよ!」
「2014年って……」
 そんな長い年号を使っている国が近辺にあっただろうか。普通、国の年号は王の交代で変わる。この地域の独特の紀年数なのか。思わずまともに考えかけ、グランはまた大きく首を振った。
 石板の力でまったく別の場所に飛ばされたのだとしたら、自分の知らない国だとしてもおかしくない。考えるだけ無駄だ。
「おい、エレム、石板はどっちを示してる?」
「あ、はい、えっと……」
 自分達を見る娘の表情が、なぜかわくわくしたものになったのを気にしつつも、エレムは懐から取り出した石板を水平に手に持ってのぞき込んだ。
  石板の上に現れた矢印の示す先には、大きなガラス張りの壁があり、その先にはたくさんの四角い塔が空に伸びているのが見えた。驚くべきことに、壁どころか、扉までがガラスで出来ていて、それも信じられないくらい透明度が高い。天井の光源といい、食べ物を包む透明な紙といい、今までの彼らの常識には存在しないものば かりだ。
「なんなんだこの国は。魔法の国か……?」
「あの光、この石板の光と似てますよね」
 エレムは目をしばたたかせながら、娘のそばにある台の上に置かれた、四角い箱を指で示した。箱には石板と同じように四角く光を放つ一面があり、異国の文字や絵を浮かび上がらせている。
「この石板も、この世界の技術で作られたものなのかな」
「だとしたら、目的地は近いってことか? おい、この矢印の先には、なにがあるんだ?」
 目を輝かせて自分達を見ていた黒髪の娘は、石板の矢印を見せられ、大仰に胸の前で両手を握りしめて頷いた。
「はい、あっちは、アキハバラです!」
「アキハバラ……」
 全く耳にしたことのない地名だった。いかにも、黒幕が怪しい居城で待ちかまえていそうなおどろおどろしい響きだ。
「とにかく行くぞ。届ける相手が男だったらぶん殴る!」
「え、はい、あ、ど、どうもお邪魔しましたっ」
「いいえ、お気をつけて戦士さまっ」
 エレムは黒髪の娘に頭を下げると、ガラスの扉を押し開けて外に飛び出していったグランを、あたふたと追いかけていった。



「……リツイートで異世界トリップごっことか、初めて見た。今はコスプレまでするんだぁ」
 ――二人が去った後、黒髪の娘はひどく感心した様子で呟きながら、カウンターの中でメモをとっていた。
「今日のコンビニ日記のネタはこれでいこうっと。タイトルは、『異世界から来たお客様』でいいかなぁ……。タブレットのこと石板って呼んでたけど、どういう設定なんだろ」

<第5章 了>
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